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雑賀光夫の徒然草

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魔球・スライダー秘話 それはグラムシ研究者が生んだ

魔球・スライダー秘話 それはグラムシ研究者が生んだ
(一)
アントニオ・グラムシというのは、イタリア共産党の創始者の一人である。不破哲三さんが若いころの著作「マルクス主義と現代修正主義」のなかで、その哲学が弱点をもっているにもかかわらず、グラムシは偉大なマルクス主義者であると評価した。レーニンが「鷲は牝鶏よりもひくくおりることもあるが、しかし牝鶏は決して鷲のように飛び上がれない」とローザ・ルクセンブルグを鷲にたとえたのになぞらえて、グラムシを鷲であるとたたえたのであった。
*「現代修正主義とグラムシの理論」(初出・文化評論1964年5月号)
最近、このグラムシを寝床に持ち込んで読み始めている。とっかかりは、竹村英輔「グラムシの思想」(1975年刊)であった。
そのはじめのほうで、あっと思うような文章に出会った。
「創始者(注 マルクス・エンゲルスのこと)によって体系的に叙述されることのなかったひとつの世界観の誕生を研究する場合には……ライトモチーフの探求、すなわち発展してゆく思想の律動のほうが、個々の偶発的主張や独立した格言よりも重要でなければならない。」
不破さんがマルクス・エンゲルス・レーニンを、その思想の発展の歴史の中で読むということを強調している。グラムシが言っているのは、まさにそのことではないか。さっそく「グラムシ選集」②P16のその箇所にもあたってみた。
私がグラムシを読むのに一番重宝したのは、「現代の君主」(青木文庫・石堂清倫他訳)であるが、この本は、いわば「グラムシ語録」というべきものである。グラムシの重要な論点を拾い出してくれている大変便利な本なのだが、不破さんとグラムシの指摘によれば、この本を読んでグラムシがわかったというような顔をしてはいけないということになる。
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             (二)
グラムシを読み返すとなると、やはり気になるのは、唯物論哲学についてのグラムシの弱点として、不破さんも指摘した点である。
「科学においても、人間の外に現実、実在を求めることは、実在を宗教的・形而上学的に理解することであり、逆説としか思われぬ。…この人間的活動をはなれて『客観性』にどんな意味があるのか…」(「グラムシ選集」④P267)
不破さんは、政治論ではレーニンを支持したグラムシも、レーニンの哲学研究(唯物論と経験批判論)を摂取できなかったのだろうとする。
また芝田進午氏は、グラムシにそれとは相反する主張がある(「選集」第二巻P190)ことを紹介しながら「グラムシの思想には、自然の先行性、自然史的世界観を否定する『唯物史観主義』と、これに対立する立場が『共存』している」と指摘する。(講座「マルクス主義哲学」①P109「マルクス主義における自然と人間」1975年刊)
竹村英輔「グラムシの思想」は、さきに引用したグラムシの見解を、「しばしば、自然の先位性の否定のように引用されたが、人間の認識の歴史的社会的相対性の否定に対する詰問として…理解すべきではないか」として、「科学においても…」の一節のご自身の訳文を示しながら「すなわち、人間がなかったとしたら、という仮説が成り立たぬことを指摘しているという意味で、むしろマルクスの『経済学哲学手稿』(岩波文庫P109-110)の指摘と共通であり、《芝田氏の批判は》原文全体と訳文を再検討すべきである」とされる。
僕は、岩波文庫版をもっていないので、また買わなくてはならないことになる。

              (三)
「グラムシ選集」は合同出版社から出されている。私には思い入れが深いもので、第一巻、第二巻は古本屋で買った。第一巻は、第7刷(1969年、定価1000円)、第二巻は、第1刷(1963年、定価800円)。第三巻以下は、初版本が絶版になってから15年以上たって出された「改装版」で、定価2500円である。このころは、多少は本代を使えたので第六巻まで新本を買った。 
「グラムシ選集」の監修者は、山崎功さんである。有名なイタリア研究者で、ながくイタリアにもおられて、イタリア共産党の幹部とも深い付き合いがある。グラムシ研究の第一人者で、「構造改革派」とも見られてきたが、ひとつの分派にばかり肩入れすることなく、バランスを取れた方である。
山崎功「わが回想…イタリアとの60年」という本がある。氏は、1980年代、肺がんになり余命いくばくもない時期に、グラムシ研究会のみなさんが企画して、山崎氏から聞き取りをして本にしたものである。(1983年刊)出版社「同時代社」の社長・川上徹氏が協力したという。この企画に賛同したメンバーが紹介されているが、労働運動の太田薫、岩井章などとともに、日本共産党関係者では、宮本顕治、蔵原惟人、春日正一、上田耕一郎、不破哲三などが名前を連ねている。巻頭には、詩人・佐藤春夫と一緒にとった写真があり、交友の広さが分かる。
巻末に、登場人物のリストがあるので眺めていたら「川上哲治」(野球の神様)が出てくるのでページを繰ってみた。「スライダー事始」という一節がある。
戦後の一時期、山崎功氏は、読売新聞社にいた。戦争のブランクがあるので向こうの球界がどうなっているのか調べてくれと頼まれて、たまたま「ハウ・ツー・ピッチ」という本を翻訳した。「スライダー」という単語を「スライディング」のことかなと思っていたら、覗き込んだ「三原」(のち西鉄監督で「魔術師」といわれるが、巨人の名三塁手だったと思う)が「それは球のなにかの種類やでえ」といいだして、そのスライダーを藤本投手がつかって、パーフェクトゲームをやったという話だ。
「中尾のために訳してやったんですよ。スライダーのことを。そうしたら中尾が不器用でね、ダメで、藤本がそれで完全試合をやったんですよ。」
知的探求のつもりだった「グラムシへの旅」(山崎功さんの著書一冊の名前を拝借)が、年齢のせいで脱線してしまう。

* スライダーについてインターネットで調べてみると「日本では、1950年にプロ野球初の完全試合を達成した藤本英雄が最初に習得したといわれる。」とあるが、この「秘話」は紹介されていない。    
(完)

by saikamituo | 2009-05-26 22:32