雑賀光夫の徒然草

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自殺予告の電話をうけて

自殺予告の電話をうけて


1、自殺予告電話

「先生、こんな生活しんどいよう、死にたい、タスケテ」
こんな電話が、M中学校でありました。早速、職員会議が開かれ、対策を協議しました。校長はもちろん教育委員会に報告して指導をうけてきました。

2、生徒指導部から提案された方針は、次のようなものでした。

① すべての家庭に電話して、子どもの様子を聞く。
② 明日、全校集会をひらいて、いのちの大切さを訴える。そのあと、HRで話し合い感想文をかかせる。
③ 学級担任による個人面談をする。
④ PTA役員会を開き、保護者集会を開いて訴える。
などです。生徒指導の先生は、緊張した面もちで訴えました。「子どものいのちがかかっているのです。先生方、よろしくお願いします。いたずら電話かもしれないけれども、今はそんなことは考えずに、電話の主をに死ぬことを思いとどまらせることだけを考えてください。」

3、この提案を受けた職員会議で、議論がでました。

A そういう対症療法でなく、根本的な問題を議論すべきじゃないですか。
S 根本問題は大事だけど、いま、子どものいのちがかかってるんですよ。悠長なこと 言うってられないでしょう。
A 私は、緊急に電話したり、訴えたりすることに反対してるんじゃないですよ
S では、どういうことですか?
A 電話するにしても、学級での話し合いをするにしても、感想文を書かせるにしても、 根本問題の捉え方によって、まったくちがってくるんですよ。

こういうやりとりの後で、次のようなことで意思統一ができました。

① 電話では「こんな生活、しんどいよう」と訴えてきた。どの子でも、いま、追われるような、息のつまるような生活をしてる。電話してきた子が特別なわけではない。そのしんどさを受容することが大事だ。

② 電話してきた子が特殊だという見方で学級会をしたり感想文を書かせると、「特殊な間違った考えをした子どもの考えをなおしてあげよう」「特殊な子を見つけだして、説得して自殺を思いとどまらせよう」という取り組みになる。これでは、かえってその子どもを追い込んでいくようになるし、周りの子どもは、「変な電話をするやつがあったので、話し合いをさせられる」という受け止めをすることになる。

③ 他方、「みんなしんどいんだ」という立場に立てば、この子は、「死にたい」などと言っていることは間違っているけれども、みんなの気持ちを代弁してくれているということになる。教師が、そういう捉え方をして、学級指導すれば、子どもは感想文を書くのでも、「電話した子の考えが間違っている」ということが中心でなく、「僕もしんどい。逃げ出したくなったり、死にたくなったこともある」ということも含めて本当のことを書くのではないだろうか。

④ 「みんなしんどい」ということをいったん受容した上で、「しんどくても力づよく生きていこう」という指導は必要だ。それには、よく取り組まれる「励ましの手紙」に取り組んだらどうだろうか。「死にたい」と電話してきた子に「励ましの手紙」をかく。

* あるクラスで、日記につらい思いを書いてきたF子さんに「励ましの手紙」を書こ うと先生が提案しました。一人の子が言いました。「先生、F子さんは、誰かわから ないけどクラスの中にいるんでしょう。F子さんは、誰を励ますの?」先生はとっさ に応えました。「今日のF子さんが、昨日のF子さんをはげますのよ」
「しんどい、死にたい」と思っていた子が、「しんどいのは自分だけじゃない」「私 のしんどさを先生もわかってくれた」と感じたとき、しんどさを乗り越える力が、内 から生まれるのでは、ないでしょうか。その力を確認するのが「励ましの手紙」なの です。

⑤ 以上は「緊急対応」である。学校、教職員集団としては、「しんどいけどがんばれ」ではなく、子どもたちのしんどさをとりのぞく「笑顔あふれる学校づくり」をめざしてとりくまなくてはならない。


解説

1990年代のことです。私は、和教組副委員長だったでしょうか。
ある支部の、組合員が少ない職場で、「子どもの自殺予告電話があった。しかし、取り組みの正しい方向が出されていないので心配だ」という電話があり、私は現地に向かいました。でも職場に直接援助に入れるわけではありません。そんなことをしたら、「組合の介入」と言われかねません。
そこで私が、一計を案じて、「ある職場での【自殺予告電話】をうけての職場討議の記録」というものを作文しました。支部書記長が、この文書を「少し前のものだけどこんなものがあるんだ」といって、職場にとどけてくれました。
どれだけ役に立ったのかは、よくわかりませんが、「よくできている」と自画自賛しています。当時の岡本佳雄さんを中心にした「教育相談センター」の到達点をふまえたものだったと思います。
古いハードディスクから出てきたので、アップしました。(2016年3月)
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by saikamituo | 2016-03-06 16:06