雑賀光夫の徒然草

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矢継ぎ早の「学校改革」が生む地域との矛盾

矢継ぎ早の「学校改革」が生む地域との矛盾

               党和歌山県議   雑賀光夫
(「議会と自治体」2008年9月 特集「地域と学校 統廃合問題を考える」

1 「拙速」はとりかえしがつかない「教育改革」

 いま、和歌山県では、高校入試の「前期・後期制」への批判がたかまり、県教育委員会も見直しにはいっています。「前期・後期制」というのは、高校入学者の半数の定数を前期試験で受け入れ、のこり半数は後期試験で受け入れるというものです。ほとんど全生徒が前期試験を受験しますから、半数の生徒は「挫折」を味わいます。「あまりに子どもを傷つけすぎる」と自民党の議員からも声が上がり、県教委も「見直し」を約束したのです。
 しかし、どう見直すのかというと簡単ではありません。20年ほどの県教委の高校政策は、「私学にまけるな」と公立高校の中に「専門学科(エリート学科)」をつくったりして「学区はずし」をするものでした。そして 2003年度からは中学区制を撤廃して全県1学区にしてしまったのです。 そのなかで起こってくるさまざまな矛盾に対応する小手先の入試制度いじりが、「推薦入試」であったり「前期・後期制」だったわけですが、いじればいじるほど子どもを傷つけることになるのです。しかも、いったん撤廃してしまった学区を元に戻すということで県民の合意をとりつけることは、たいへん困難です。「教育改革の拙速はとりかえしがつかない」と申し上げるゆえんです。

2 広大な学校区域を生む中学校統廃合プラン

県教育委員会諮問機関から「和歌山の未来を開く義務教育(義務教育ニュービジョン研究会議報告・平成18年)」というものが出されました。建前上は、少子化の時代に義務教育はどうあるべきかを提言したことになっています。「報告書」には、「資料」が添付されています。小中学校のあるべき姿を全面的に検討とするのなら、「学力」「体力」「不登校」「校内暴力」など学校がかかえる教育課題についての資料が添付されているのだろうと誰もが考えます。ところが、そこに添付されているのは、「学校規模の全国順位」「児童生徒数の減少」などにかかわる資料だけなのです。
その中に示される「中学校の適正規模化」の指針は「① 一学年3学級以下の中学校は、統合を検討。② 通学範囲は、文部科学省がいう6キロメートルを大きく上回るが、通学路の整備やスクールバス導入につとめる。」の2点につきます。その文言通りに統合が実施されれば、大変な広い校区の学校ができてしまうのが、和歌山県の過疎地の実態なのです。私は「教育論のふりをして、財政上の都合での学校統廃合プラン」と批判しています。
この「報告」と平行して私が住む海南市では、中学校の統合計画がすすめられていました。人口5万人たらずの海南市(その後合併して少し大きくなりました)には、6つの中学校がありました。少子化のなかで、どの学校も1学年2学級から3学級になっています。たいへんコンパクトで落ち着いた教育環境が実現しています。海南市教育委員会は、それを2または3校に統合する案を示したのです。
公民館で開かれた地域の説明会に参加しました。そこでのやり取りです。
(お母さん) 私もよそからきたときは、私学ということも考えた。しかし、いまの中学校はバッチリ。入学式で校長先生が「この学校は活気がある」と語られたがほんとにそうだ。中学校をこのまま残してほしい。
(教育長)学校がそんなに信頼されているとはうれしいことです。意見としてうけとめたい。
統合計画をめぐっての論議は、いまもつづいています。「生徒数が少なくなって部活動がやりにくい。運動会がさびしい」という意見もあります。運動部活動など社会体育として地域で共同してすすめることも検討してもいいように思います。
私たちは、あまりにも小さい学校については統合も必要な場合があると考えています。保護者からそれを望む声が出されます。しかし、学校がなくなった地域は、火が消えたようになって過疎化が進行します。地域の住民のみなさんから「なんとか学校を残せないか」という声が出されます。こうしたなかで、「保護者・地域住民合意」が大切だと考えています。

3 統廃合を押し返した大成高校と地域の運動

県教育委員会は2005年、「県立高校再編整備計画」を策定していました。そこでは「望ましい学校規模」を「1学年4~8学級」としていました。
2005年8月26日、県教育長は、「再編整備計画」の具体化として「来年度から大成高校の募集停止をし、海南高校と統合する」 と発表したのです。和歌山市の南に隣接する海南市の海南高校、その奥の紀美野町の大成高校。中学区制のときは、同一学区に属した普通科高校でした。和歌山県では学区が撤廃されて、全県1学区になっているのは、先に述べたとおりです。
募集停止発表直後の9月県議会で、わたしは次のように述べました。
「大成高校は、…ここ数年間、学区撤廃にもかかわらず3学級の定数を、地元野上町・美里町・海南市の生徒が372名中、約300人を占める、地元にねざした高校です。…募集停止案を発表する3日前には、90人を越える中学3年生をむかえて体験入学を実施しています。フェンシングをやっている在校生が、地元・野上中学校を訪問して、「ぜひ、大成高校に来てください」と呼びかけています。」
こうしたさなかの、突然の発表です。大成高校育友会は「統廃合白紙撤回」の署名にとりくむことになりました。小中学校PTAや教職員組合、新婦人の会などの民主団体の協力が広がりました。高校生もJR駅前などで署名を訴えました。9月22日には、海南市民会館で「大成・海南高校統合を考えるシンポジウム」が200名の参加で開かれ、高校生もパネラーとして大成高校存続への思いを語りました。
こうしたとりくみの広がりの中で、署名は5万2803筆にのぼり、9月県議会では、大成高校育友会から提出された請願は、全会一致で採択されました。10月7日には、木村知事が大成高校を訪問して、地元町長・教育長や育友会役員などと懇談しました。
こうした大きなうねりのなかで、県教育委員会は、「来年度から募集停止」ということは撤回し、2005年度は3学級(120人)の生徒募集がおこなわれることになったのです。
それでも「統廃合計画」が撤回されたわけではありません。地域の運動はこれからです。ちょうどこのころ11月11日、大成高校は「創立80周年記念式典」の式典が開かれました。私を含めて3人の地元県会議員は祝辞をのべたのですが、「大成高校存続を」と訴えるそれぞれの祝辞に、保護者・生徒から拍手がわきました。私は「私のところに寄せられたのは、『大成高校の生徒たちは、すごくよくなってがんばっているのよ。その大成高校をなくさないでほしい』という声でした。地元のみなさんの支持がなかったら、5万もの署名が集まることにならなかったでしょう。来年度からの募集停止を押し返すことができたのは、君たちの力です。」と述べました。
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4 「存続させる会」を結成し、生徒の就学権を保障

年が明けて、1月16日「大成高校を存続させる会」が結成されました。和歌山県南部、古座高校についても募集停止・串本高校と統合することに反対するたたかいも平行して進められていました。「存続させる会」の結成総会には、先に「会」を結成していた「古座高校を存続させる会」からもおいでいただき、激励の挨拶をいただきました。「大成高校を存続させよう」というタテ看板が、紀美野町、海南市の各地にたてられていきました。
こうした中で、県教育委員会は「① 当面は大成高校を存続させる。 ② 募集定数は120名とするが、2年連続で106名に達しなければ、合併の方向で協議する。」という方向が提示されました。
私たちは、この案を了承したのではありませんが、「当面存続」を含んだ方向が出されたことは、大きな意味をもつと考えました。ここでは、「① 大成高校を魅力ある高校にして、106名以上の募集達成をめざす。 ② 106名という基準を機械的に適用しないように要求する」という二つの方向での対応となります。
しかし、学区制が撤廃されて高校間格差が固定化されているわけですから、「魅力ある高校に」といっても簡単なことではありません。大成高校の定数は、二次募集でやっと埋まるというのが実態です。海南高校の募集定数が引き上げられれば大成高校の募集定数には穴が開きます。
2005年度の大成高校入学者は、106名を越しました。ところが2006年度は海南高校募集定数1学級増となったのです。そのことは、生徒・保護者の要望にこたえたものですが、大成高校は、106名の基準を、わずかですが下回ることになったのです。(2006年・2007年)
 私たちは、こうした条件の中で「基準の機械的な適用をするな」「地元生徒の就学権をどう保障するのか」という立場から、あらためて運動を再構築することになりました。4月から7月までの短い期間のとりくみでしたが、私もあらためて県議会でもとりあげました。
 こうしたとりくみ中で、県教育委員会は「①平成20年(2008年)から統合校開設、②大成高校現校舎を統合校の分校舎として2学級で生徒募集する」ということを示したのでした。古座高校についても同様でした。当初の「統廃合」そして途中で提示された「2年間に限って分校舎」という案を押し返して、期限はつけずに大成高校の場所に2学級の分校舎が残ることになったのですから、私たちは「地元生徒の就学権保障」という面から、また全国でとりくまれている高校統廃合の状況からみて、一定の評価できるものだと考えています。

 統合校の名前は「海南高校」となり分校舎は「海南高校大成校舎」と呼ばれています。ひとつの学校に分校舎がおかれ、別の入試で生徒を入学させるわけですから、これからさまざまな苦労があるだろうと思います。また、分校舎の教育内容を充実させないと分校舎の存続もままなりません。
 しかし、県教育委員会が高校学区撤廃・中高一貫県立中学校推進など矢づぎ早にすすめてきた「高校改革」に保護者と教職員組合・学校・地元自治体・会派を超えた地方議員の協力などで、ストップをかけ、生徒の就学権保障に一定の成果を残すことができたたたかいは、大きな意味を持っていますし、その力をさらに教育を守る運動に行かしていくことが求められると思っています。
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5 中高一貫県立中学校をめぐって

 学校改革のもうひとつの重大な問題は、中高一貫の県立中学校でした。和歌山県で、義務教育に複線化をもちこむこの制度が持ち込まれたのは2004年からです。私は「中高一貫の県立中学校がつくられれば、受験させたいという保護者は多いだろう。しかし、その学校の設置が公教育にゆがみを持ち込むことが問題だ。」と指摘しました。最初は和歌山市の1校でした各地域に広げられていきました。私は「和歌山市に一校だけ設置されたときには、中学1年生のうち70人に一人がこの学校を選択した。しかし、各地に県立中学校ができると、15人に一人程度の中学生がこの学校を選択することになる」と指摘し、「ゆがみ」が加速されることを警告しました。
最近、県議会文教委員会で、地域の教育長さんや校長さんのご意見を聞いて回る機会があったのですが、伊都・橋本での懇談で、ある校長がおっしゃいました。「県立中学校ができて、小学校から中学校に来る九〇人の児童の半数が受験しました。一三人が合格。合格しなかった児童の中にも私学に行くものも増えて、二〇人が抜けました。県立中学校というのは、一般の中学校にいい刺激を与えるといわれてきましたが、大打撃です。」わたしが警告した以上の「ゆがみ」を生んでいるのでした。
それにもかかわらず、県議会では「うちの地域にも県立中学校を」という発言があります。自分の支援者から「近くに県立学校があったらうちの子もいかせたい」といわれると、「県民の声だ」と発言するのです。一方で、「高校入試の前期・後期制」では、支援者の子どもさんが傷つき、その声が保守の議員にもとどきますから、県議会でも批判がでるわけです。
実は、ここに「教育改革」での県民合意の難しさがあります。「高校学区拡大」は、個々の受験生と保護者にとっては、「受験の自由」が拡大されるかのようにみえます。「県立中学校」ができれば、子どもを入学させたいと思う保護者はいます。保護者としては当然のことです。
しかし、こうした競争の教育の強化が、長い目でみてどういく子どもを育てるのか。「秋葉原でおこった事件を考えよう」といっただけでは、あまりに短絡的に聞こえますが、深いところで子どもと教育をゆがめていることについての論議が必要です。

6 受験偏重教育は、ほんとうに子どもを伸ばすのか

生き残りをかけた受験教育する私学があります。ところで、受験に特化した教育は、長い目で見て子どもの能力を伸ばしているのでしょうか。
私は、昨年6月の県議会文教委員会に、異例の質問をしてみました。それは教育委員のお一人に和歌山医科大学の学長をなさった方がおられたからです。
「Q 受け入れた側の経験がある駒井委員に、和歌山の公立高校についての感想を聞きたい。
A ……私のまったくの個人的な見解だが、いわゆる進学校から入ってきた人と公立校から入ってきた人の将来を比較すると公立校出身者の方が伸びる。これは確かに言える。……」(文教委員会議事録)
 「受験私学のゆがんだ教育は、医者になっても問診もできない医者を産みかねないという危機感が関係者のあいだで交わされている」という話を聞いていたのでぶっつけてみた質問ですが、駒井委員は率直に答えて下さったのでした。
 もちろん、受験私学ばかりでなく、人間教育を大切にする私学が少なくないことは言うまでもありません。受験偏重になれば、公立でも同じことです。
 文部科学省は、教育基本法の改悪、教育振興基本計画で教育の管理統制を強める一方で、教育予算の削減をはかっています。その一番手っ取り早いものが、学校統廃合です。
 人間らしい豊かな教育の実現に向けて、教育現場の自由、教育の自主性を守り、保護者とともに三十人学級実現の運動などを広げていきたいと思います。
(さいかみつお)

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by saikamituo | 2008-08-30 23:22